貸本屋

小学校の通学路の途中に、お菓子屋さんがあって、
その隣に洒落た貸本屋さんができた。
たぶん棟続きの1軒を改造したそのお店は、
入った左手の壁面に、当時のモダンな生活の象徴のような
パステル色の穴あきボードを壁面に配し、
その穴にひっかける小棚に新刊書が立てかけてあった。

店の中央の平台には雑誌、右手の壁面は書棚で、
まんがの本が並んでいる。

小学校4、5年生の私は山根あかおに、あおおにという名前の
まんがを探し出して読んだ。
会社をリタイアした風情の白髪のおじいさんと
奥さんが店番をしていた。

上品で物静か、やさしいご夫婦で、長いこと立ち読みしていても
いつも笑顔で可愛がってもらった。
ごくたまに、学校帰りに通りかかると
店の前に台を置きホースを引いて
水で流しながら、おじいさんがウナギをさいていた。
釣ってきたものだろうか。
6年生頃には、主に読む本は右の棚から左の新刊書に移っていた。
ある日、おしゃれな本を見つけて、むさぼるように読んだ。
フランソワーズ・サガンの「悲しみよこんにちは」だった。
あとがきに、少女時代のサガンは
小説家になりたくて、パリの裏町を歩き回った、と書いてあった。
小説家。。。。裏町。。。。
それから中学生時代は、いかめしいデザインの大学ノートに
ペン先とペン軸、ブルーブラックのインク瓶を買って
団地の一室の学習机に頬杖を付いて、小説家に憧れていた。
なにごともカタチから入る性癖と、憧れ癖は
思い起こせばあの「貸本屋」が出発点だった。
***

昔のまんが本は、ザラッとした手ざわりで背のところは
段ボールみたいな紙がはがれ、いかにももろそうだったのを覚えています。

紙が貴重だったのでしょう。
貸本屋というスタイルに、あの時代の知恵を感じます。

今のレンタルビデオやCD、DVDとは違って、スローな時代の娯楽でした。
◎オバンスタナカ◎

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